李恢成著「サハリンへの旅」

講談社文芸文庫から’98.3に出されたタイトル名の本を読み終えた。
底本は同じ講談社刊で、’83.5に出された同名本だ。

著者は’35に当時の樺太に生まれた朝鮮人だが、’47に北海道へ引揚げた。
’81に妻と末息子を伴い34年ぶりに、生まれ故郷を訪れたときの顛末が書かれている。

’81はまだまだ監視の厳しいサハリンであることが伺える。
末尾の小笠原克による解説の中に、中野重治の以下の言葉がある。
「日本帝国の無条件降伏は、・・・朝鮮にたいしては全く平伏していなかった。むしろそれは、朝鮮をわが内へ引きいれておいて他の一連の国々に無条件降伏をしたものだった。加害者が被害者を、加害者自身に加えておいて、他に対するという非道で恥知らずの性格をそれは持っていた。」

著者の原作で1984小栗康平監督により映画化された「伽倻子のために」は、現渡辺謙夫人の南果歩の初々しい演技で記憶にあるが、著書を読んだのは初めてだった。