鯉のぼりの布団

新藤兼人監督作品に「どぶ」(1954)があり、宇野重吉殿山泰司らが演じるいいかげんな労働者たちが、バラック小屋で鯉のぼりを布団代わりに眠るシーンがある。

私はこれを貧困とユーモアを演出したものと理解していたが、それは間違いであることがわかった。
日経新聞本日付コラム「私の履歴書」で、谷川健一氏が宮本常一氏のことについて書いている中で、宮本氏が寝ていた布団について、「布団の皮は五月の節句のとき立てる鯉のぼりの布地をぬいあわせたものだった」と記している。

「どぶ」ではせんべい状にしろ綿はなく、鯉のぼりにすっぽり入って寝ていた。
宮本氏は薄っぺらな布団にしろ綿が入っており、こちらのほうが裕福といえるだろう。
しかし、大きな布地の鯉のぼりはこのように布団に利用され、おそらくそのような現実があちこちに見られ、新藤監督は当然のように描いたわけだ。

私は映画でこのシーンを見たとき、ユーモアを感じて思わずにんまりしたが、布団が買えない貧しさの中で何を代用にするかと考えた場合、私ならワラくらいしか思いつかない。

今日はこの一文を見つけ、うれしい日になった。