①「それでも僕は帰る」ドキュメンタリー映画

★ アラブの春は2010年12月、チュニジアで始まった。
失業中の26歳の青年が路上で青果を売っていたところ、政府による取り締まりを受け、商品を没収されたことで抗議の焼身自殺を遂げたことに発する。
民主化運動はその後、エジプト、シリア、リビア、イエメン、ヨルダンに波及していった。

結果としてチュニジア、エジプト、リビアでは長期独裁政権が倒れ、湾岸諸国では体制が存続し、シリアでは政府軍の弾圧が長期化している。

シリアにおいては2011年3月に、政権を批判する落書きをした少年が当局に逮捕・暴行されたことをきっかけに抗議行動が発生し各地に広がった。
この作品は1977年ダマスカス生まれのタラ―ル・デルキ監督が、2011年から2013年にかけ反体制派の拠点のひとつだったシリアのホムス(ダマスカスとアレッポの中間に位置する)で撮影したものだ。
主人公は2011年当時、サッカーのユース代表チームのゴールキーパーとして活躍していたバセットという青年。
カリスマ性があり民主化運動のリーダーとなっていく。
2012年2月政府軍の容赦ない攻撃でホムスで170人の市民が殺される。
それまでは非暴力の抵抗運動を先導していたバゼットたちが、これを機に政府との対話が不可能と悟り、武器を持って戦い始める。

命がけで撮影された映像がホムス戦の激しさを映し出し、ドキュメンタリーの真骨頂を発揮する。
ジャーナリストの山本美香さんが殺害されたのは2012年8月アレッポにおいてだが、場所は違えど時期的に重なっている。
2012年のシリア人口は2240万人だが、内戦により500万人が難民に、660万人が国内避難民になり、いずれも増加傾向にあるという。
国の人口の半数以上が難民・国内避難民となっている。