「知性は死なない」輿那覇潤著 文藝春秋

※ 自分の身の回りも含め、精神を病む人は多い。
その状況を少しでも探りたくて、本書を求めた。

著者は1979年生まれ、愛知県立大学日本文化学部准教授として働いていたが、2014年躁うつ病双極性障害)を発症し入院、2017年大学を退職。本書は今年4月発行された。
内容は6章からなり、1章…私が病気になるまで 2章…「うつ」に関する10の誤解 3章…躁うつ病とはどんな病気か 4章…反知性主義とのつきあいかた 5章…知性が崩れゆく世界で 6章…病気から見つけた生きかた となっている。

彼は2014年勤務していた大学で、普段は「天皇制批判」を公言していた同僚たちが突如「研究者・皇太子徳仁親王による学術講演」を、次年度に行う目玉企画として推し進めだす(結果的には実現せず)という状況を経験する。
この時点で、すでに大学に価値を見出せなくなっていたと…。この年8月に急激なうつ転を体験。
本書の第2章は http://bunshun.jp/articles/-/6930 に詳しい。

2015年3月短期の検査入院の結果、即治療入院となる。

2017年大学を退職。

内容は平成の30年間の総括が試みられ、例えば1991年8月27日に電通の24歳男性が自殺した事件、
この最初の過労死自殺訴訟で、雇用主の電通に責任を認める判決が2000年3月24日に出る。ところがその4日後にNHKの「プロジェクトX」の放送が始まり、頑張る者たちがもてはやされる。
指摘されて、ああそうだったかと気づく。

日本中世史の網野善彦西洋史阿部謹也の関わりの記述も興味深い。
阿部謹也今上天皇の皇太子時代、被差別部落の問題を進講したが、網野善彦はその面会を批判したというのだ。
私は20年ほど前、阿部謹也の「日本社会で生きるということ」を読んで以来、彼に私淑している。


バリアフリーの研究者福島智は2005年「適応障害」を発病したが、その後も再発を繰り返しているということだ。

いずれもモヤっとした引き金らしき原因はあるが、それが重篤な精神の病につながっていくことを止めるすべはないのか?
他にも映画監督想田和弘が経験した「燃え尽き症候群」もある。


精神の病と平成を振り返って見たい人にはお勧めの本だ。