与那覇潤著「帝国の残影 兵士・小津安二郎の昭和史」

※ 以前(正確には2015.3.30付)本ブログで書いたことがあるが、辺見庸は自らのブログで小津安二郎を徹底的に批判した。
日本兵が中国大陸で行なった数々の加害と蛮行を、小津の作品は無化するのに役立ったと書いた。
その判断の背景が本書で垣間見えるかもしれないと読んでみた。

著者(与那覇)の小津への考察の一部を書き出したい。

・みずからが体験した戦場でなく未経験の家族形成を扱った自分の作品が〈小津は生涯独身だった〉、あたかもリアルな現実の表象であるかのごとく錯認されるこの国の映像と言説の空間…

・製作者自身にとってどこか疑わしさを感じてしまう、欠如だらけで作り物めいた小津映画の世界に、しめやかに整えられ完結した「日本」を見出してきたこの国の歴史語りの方が、どこかで決定的なボタンの掛け違いをしてきたのではないか。

・独身稼業の活動屋人生という、同時代の社会における裏街道を歩いてきた小津には、むしろ都市部での皆婚化と家族形成というこの時期新しく始まった日本人の生き方こそが、戦争に淵源する巨大な暴力のもとで形成された、奇妙な様式であることが見えていたのだろうか。

・1953年6月松竹の社内試写室で観た木下恵介の「日本の悲劇」を小津は否定し、以来互いの映画を見ることはなかった。

これらを読むと、辺見が小津を拒絶する理由がぼんやり見えてくる。
小津安二郎を研究したい人には勧めたい。

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本書の定価は2300円+税、Amazonの中古品でも安いものがないかと探したがなく、図書館に注文したら県内にはないので、徳島県立図書館から送ってもらうことに。
片道の書留送料730円を支払い、借りた。