子供のころ

幼いころ風呂のある家はほとんどなく、銭湯に通った。

わたしは番台に座るおばさんに強い憧れをもっていた。
おばさん個人にではなく、おばさんが座る場所にである。
うちでも壁面をバックに、周りをがらくたのバリケードで囲って、番台おばさんになりきってよく遊んだ。

つぎに憧れていたのはかしわ屋のおばさんだ。
これもおばさん個人にでなく、その仕事ぶりにである。
当時は鶏肉とは言わず、「かしわ」とよんでいた。
~gくださいと言うと、実に手際よく竹の皮に包んで輪ゴムで留めて手渡してくれる。
その動きがカッコよかったのだ。
かしわ屋さんには、豚肉や牛肉はなかったし、かしわ以外の肉を食べた記憶もない。

かしわ屋さんごっこもよくやった。
かしわの代わりにスイカを食べた後の淡い緑色の部分を刻んで、肉にみたてた。

かしわ屋さんではなぜか焼き芋も売っていた。
大きな素焼きのカメの中に、たしか練炭が入っており、周囲に芋が吊り下げられていた。

なぜこんなことを思い出したかというと、きょうは雨が降っていて、子供の頃、雨だと布団の中に入るのが好きだったことをふと思い出したからだ。
少し自閉的な子供だったのかもしれない。