「風の中の子供」 監督清水宏 1937作

★ 1937という時代に、この映画を見てどれほど多くの人が希望を与えられたことだろう。
 
主人公は小学校低学年と高学年の二人の兄弟。
兄は成績優秀だが弟はやんちゃで成績も『丙』が多い。
兄弟は何かと言うとけんかばかりだが、なかよしだ。
 
ある日父親が無実の罪の嫌疑をかけられ、拘置所に連れて行かれる。
父親がいなくなった家は、家具に至るまで差し押さえをうける。
働きに出なければならなくなった母親は、弟を親戚に預け、兄を連れて住み込みの働き口を探す。
預けられた弟は早く家に戻されようと、厄介先でいたずらに磨きをかける。
 
ラストは父親が記録していた日記から嫌疑が晴れ、元の家族が揃った生活が始まる。
 
印象的なシーンが二つあった。
一つは一人で鬼ごっこをしていた兄が、弟を思い出し、衣紋掛けに吊るした着物に隠れたまま弟を偲んで慟哭するシーン。
もう一つは預けられた家でのやんちゃが過ぎて家に戻された弟が、橋のたもとで母親の困り果てたようすを見かねて、再び親類の家に行こうと決心する場面。
 
父の職場に昼の弁当を届けることが、また、父と相撲を取ることが、どれほど幸福なことなのか。
つまりありふれた日常のかけがえのなさに気付かされる。
 
1937という年は、北京郊外で本格的な日中戦争がはじまり、暮れには岡田嘉子と杉本良吉がソ連への越境に出発し翌正月には50度線を超える。
そういう時代に作られた映画であることがより一層味わいを深くする。