「風成の女たち」松下竜一著 河出書房新社

 
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★ この本の存在はかなり古くから知っていたが、読まずにいた。
先月、諫早を歩いているとき、「開門のための調査反対」の立て看板を何度も見て、この本を思い出した。
 
出版されたのは1972年8月で、朝日新聞社から。
著者は先日紹介した『ルイズ』と同様、松下竜一で、彼が大分・中津在住だったことによる。
出版のいきさつは1971年秋に西日本新聞社からの原稿依頼が発端だ。
当時新聞社では、九州・山口各県がいま一番直面している問題をテーマに、各県在住筆者が執筆するという年間計画があり、大分県版は松下に白羽の矢を立てた。
新聞社から与えられた連載枠は15回で、内13回分で予定していた別府湾ルポが終わってしまい、あと2回分を埋めるために少し南部の臼杵湾奥の風成で展開されていた公害反対運動を載せた。
その2回分を詳細な本にまとめたのがこの作品だ。
 
山口泉の末尾の解説から引用すると、
――「風成の女たち」は1960年代末葉から70年代初頭にかけて、大分県の一漁村の主婦たちが、巨大製鉄産業を後ろ盾としたセメント工場、生石灰工場の市ぐるみの誘致に反対、企業やその手先となった市長らと戦い、埋め立てられようとする海を、文字通り決死の覚悟で守り通した闘いの記録である。――
 
松下竜一の記録作家としての歩みは、あの「眉屋私記」の上野英信の影響に始まると知ったのも収穫だが、先に読んだ「ルイズ」の年譜では小出裕章鎌田慧安田好弘らとの交流も知った。
 
新聞社の企画にも今と異なり、真摯な取り組み姿勢が見られるし、何よりも風成の女たちの気迫たるや、原発廃止に活かせるものを掴みたい。