中坊公平氏の死

★ 数日前の新聞に中坊公平氏の死が報じられていた。
住専問題のあと、住宅金融債権管理機構という国が作った債権回収会社の社長になった人だ。
90年代前半だったろうか。
あの頃NHKをはじめマスコミは「中坊公平特集」を組んで、連日のように中坊氏の人格者ぶりを宣伝していた。
住管機構の債権取り立てをスムーズに運ぶために、メディアはこぞって中坊氏を持ち上げた。
 
晩年は弁護士も廃業せざるを得なくなり、経済的には困らなかっただろうが社会的には不遇な生活だったと想像する。
 
どちらも弁護士である中坊公平氏と安田好弘氏の関係を宮崎学著「地下経済」からとりあげてみる。
オウム裁判の松本知津夫被告の国選主任弁護人だった安田好弘弁護士は、98年に強制執行妨害容疑で逮捕され、住管も安田弁護士を告発した。
警察の力を借りて不良債権の取り立てをやっている住管社長中坊氏は、国民の側でなく国家権力にすり寄った。
警察はオウム裁判から安田氏を外しにかかった。
安田氏によってオウム事件の全容を明らかにされると、警察の捜査の中身も明らかにされる。
権力側はそのことによる自らの威信の失墜を恐れた。
 
松本サリン事件の後、神奈川県警はオウムが購入していた化学薬品のリストを作っていた。
松本に撒かれた化学薬品がサリンであること、オウム教団による犯行であることを神奈川県警はほぼ掴んでいたのである。
なのに、河野というオウムとは何の関わりもない人を一年近くにわたって犯人扱いしている。
さらに、神奈川県警は岡崎一明という坂本弁護士一家殺害に関与した者の証言を得て、坂本弁護士らの遺体が埋められている場所まで40センチのところまで迫ったという事実がある。
岡崎の供述にもとづいて、もう少し警察全体が努力して捜索していれば遺体を発見できた。
そうしていれば、地下鉄サリン事件は未然に防げたはずなのである。
 
安田氏はオウムにとって不利な事実も有利な事実も、全部ひっくるめてはっきりさせようとしていた。
あれだけ多くの犠牲者を出した事件である。
全容を明らかにしないことには社会への教訓として残らない。
まさにその裁判が始まる瞬間に、安田氏はパクられた。
 
宮崎氏のこの本を読むまで、二人の弁護士の関係を知らなかった。
「地獄への道はアホな正義で埋まっとる」というやはり宮崎氏の著書にもこの間の詳細が書かれているようだ。
 
やはり数日前の新聞に松本智津夫死刑囚の再審請求が却下された記事があった。
糞尿まみれの独房で、犬のように主食・副食が一つの皿に入れられた食事を摂り、ボウズリで体を洗われる人を想像できるだろうか。
松本死刑囚詐病とされているが、加賀乙彦氏は完全にその診断を否定している。