想田和弘監督「港町」於シネマクレール丸の内

※ 岡山まで観にいくのは時間もお金もかかるが、この歳になるとまた今度と思っていると結局はそのチャンスは来ないという経験も多くなる。

まず上映館に開始10分前に到着し、シニア料金適用のため運転免許証を見せると、50歳前後の係員が「この写真はあなたですか?」と問う。
「どういう意味ですか?」と思わず聞き返すと、「いや、男性に見えたので…。」と答え、その後さかんに「失礼しました。」と恐縮したように言ったが、後の祭りだ。
許さない!!
実際そう見えても、免許証を見せているのに、そんな事を言うか?!
LGBTへの偏見などもこういう輩が拡散しているのではないかと感じた。

不愉快な気持ちを抱え館内に入ったが、作品は非常によかった。
どういう意味でよかったかというと、観終わった後の余韻が深い。

想田監督のドキュメンタリーは観察映画といわれている。
舞台は岡山県牛窓、ワイちゃんと呼ばれる85~6歳の老いた漁師さんが写り始める。
腰も90度近く曲がっているが、底引き網で多種の魚を獲る。
暗い中船を出し、まだ暗い市場に魚を出す。出した時点で死んでいる魚は半値になるという。

港ではクミさんというやはりワイちゃんと同年齢くらいのおばあさんが、話し相手を求めて1日を過ごす。クミさんはお節介で、他人のあまり触れて欲しくない事情なども誰彼構わずおしゃべりする。
私ならあまり友達になりたくない人だが、想田監督は黙って話を聞きながらカメラを回す。
ワイちゃんとクミさんがほとんどメインの作品なのだが、観終わった後はクミさんの比重が大きかったような気がする。
それはきっとクミさんがおしゃべりなせいで、後半では想田監督に自分の生い立ちや子供のことなどを話し始めたからだろう。

その他にも小高い山の上の墓を守りながら老父の世話をする女性。
魚屋を切り盛りする75歳を超えた女性。
何十匹という猫の餌を世話する比較的若い夫婦。

出演者それぞれの人生に、思わず思いを馳せてしまう。そこがこの映画の魅力なのだろう。

2013年11月2日、世田谷美術館で想田監督の「精神」を観たのが、この監督を知るきっかけになった。
もともと正規の美術教育を受けず制作した作家たちの作品展示を見に出かけたのだが、この美術館の学芸員と想田監督が学生時代の同級生という縁で、映画上映会が企画されたようだった。

過去の同監督の作品もネットで有料配信されている様子なので、観てみたい。