「歴史の本棚」加藤陽子著 毎日新聞出版

加藤陽子さんは学術会議メンバーに任命されなかった6人のうちの1人だ。

専門は1930年代の日本の軍事と外交だが、書評は多岐にわたる。

この本の内容は毎日新聞 に掲載された書評や「論座」に掲載されたものからなる。

 

例えば木庭顯(ローマ法)著「誰のために法は生まれた」の項・・・木庭はローマの人々がある時、どうしたら社会の中で力の要素がなくなるだろうかと考え、桐蔭学園の中高生たちをその地点に誘う。最も弱い個人に肩入れするものとして「法」が生まれ、権力と利権を巡って蠢き、個人を犠牲にする徒党の解体を体系的に行う仕組みとしての「政治」が誕生する。

日本の憲法9条について、戦争の惨禍から生まれた日本国憲法が、実力行使を正当化する全経路を断つべく、いかに厳密な論理で書かれているか・・・。

 

また「胡桃澤盛日記」全6巻 長野県飯田市歴史研究所監修 の項・・・胡桃澤盛は長野県伊那郡河野村(現豊丘村)の村長だったが、満州への分村移民を送り出し多くの犠牲者を出した。その自責の念から敗戦翌年に自死した。若き日からその死までの日記。

一方、部下に公文書の書き換えを指示し、部下を自死に追いやり、裁判では認諾で国民の税金から賠償金を支払い、真実を明らかにする道を閉ざした佐川宣寿という人がいる。

こういう不条理が蔓延ることは社会を構成する人々の心を病ませる。

 

2例を取り上げただけだが、暮れも迫りこの本に出会えたことに感謝する。

加藤陽子という人はすごい人だ。