「あのころはフリードリヒがいた」 リヒター作 岩波少年文庫

★ ユダヤ人少年フリードリヒと、同い年のドイツ人少年「ぼく」との交流を描いている。
彼らは1925年生まれで、作者のリヒターも同年生まれ。
訳者(上田真而子)のあとがきにもあるが、「ぼく」は作者自身だろう。
 
1934年、彼らが9歳を迎える年、フリードリヒがナチスにより転校せざるをえなくなる。
このとき担任の先生が、二千年に亘るユダヤ人の歴史を子どもたちに語って聞かせる。
この内容から、ユダヤ人の歴史のドイツにおける通説がわかる。
 
巻末の1933~1945の年表には驚く。
次々出される法律や命令の内容が、ユダヤ人を抹殺するものであることがよく理解できる。
 
これらの出来事が、大昔のことでなく、ほんの70年前のできごとであるということ。
そして、わたしたちはこれほどの狂気に加担していく生き物なのだということ。
 
フリードリヒは1942年17歳になる年、焼夷弾の爆撃で、かつて「ぼく」といっしょに暮したアパートの入口近くで亡くなっていた。