③「女を修理する男」ドキュメンタリー

★ ティエリー・ミシェル監督/コレット・ブラックマン監督
今回の8作品の中で唯一劇場未公開の作品。

性器にナイフを刺され、膣と肛門がつながった女性、レイプされた2か月の赤ちゃん、コンゴ民主共和国東部においては1996年以降、女性の3人に2人が性暴力の犠牲になっている。
これらの女性たちの治療と精神的回復に身を捧げるデニ・ムクウェゲ医師の活動を追った作品。

コンゴ東部の性暴力は単なる性欲の問題でなく、鉱山資源との関りが深い。
コンゴではスマホやゲーム機のコンデンサーに使われるタンタルが豊富に採れ、世界のタンタルの6割が埋まっているとされる。
武装勢力は鉱物を違法採掘する多国籍企業から賄賂を受け取り、活動資金にしている。
鉱物は市民の居住区に埋まっていることも多く、住民の強制移動を目的として性暴力をふるう。
そのことで住民に恐怖心を植え付け、コミュニティ全体を弱体化させ、支配下に置くことを容易にさせる。性暴力を受けた被害者や家族は、暴力を受けたことを不名誉、恥と感じ、周囲とのつながりを自ら断ってしまう。
また子どもを産めないようにすることで、長期的にはその地域の人口を減少させることにもつながっている。

ムクウェゲ医師の活動は評価され、2014年にサハロフ賞を受賞した。
2012年には脅迫を受けるなど身の危険を感じたため、国外に逃れたが、患者たちの要望に応えコンゴに戻り、国連平和維持軍に警護されながら医療活動を再開している。
政府が腐敗し、司法が機能しておらず、国軍や警察も性暴力に加担する地域で活動する姿は崇高だ。
8作品の甲乙はつけがたいが、もっとも心に響いた作品のひとつだ。